アマチュア無線界で今、最も熱い議論を呼んでいるテーマの一つが「FT8」です。この新しいデジタルモードの登場は、アマチュア無線の楽しみ方を大きく変え、一部では「FT8は外道だ」とまで言われるほどの賛否両論を巻き起こしています。あなたはこの議論、どう考えますか?
この記事では、私、JA3CGZが長年アマチュア無線に親しんできた経験も踏まえつつ、FT8が「外道」と呼ばれる理由、そしてそれを擁護する意見を公平に掘り下げていきます。FT8とは一体何なのか、その基本的な仕組みから、CWやSSBといった伝統的なモードとの違い、そして未来のアマチュア無線におけるその役割まで、徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたもFT8をめぐる議論の最前線に立つことができるでしょう。
目次
FT8とは何か?デジタルモードの基礎知識

まずは基本から押さえましょう。FT8とは、ノーベル物理学賞受賞者であるジョー・テイラー博士(K1JT)とスティーブ・フランク氏(K9AN)によって2017年に開発された、非常に微弱な信号でも交信を可能にする画期的なデジタル通信モードです。パソコンと無線機を接続し、専用のソフトウェア「WSJT-X」を使って運用します。
FT8の最大の特徴は、その驚異的な通信能力にあります。15秒という短いサイクルで送信と受信を自動で切り替えるため、非常にスピーディーな交信が可能です。さらに驚くべきは、人間の耳では聞き取れないような、ノイズに埋もれた-24dBという極めて微弱な信号までデコード(復調)できる点です。これは、都会のノイズが多い環境や、貧弱なアンテナしか設置できないアパマンハムにとって、まさに救世主と言える技術です。
コールサイン、シグナルレポート、そして「73」(さようなら)といった定型文の送受信が自動で行われるため、オペレーターは画面をクリックするだけで次々と交信が成立します。この手軽さと性能の高さから、FT8は瞬く間に世界中のアマチュア無線家に普及し、現在ではHF帯で最も多くの局が運用する人気モードとなっています。
「FT8は外道」と言われる理由を徹底分析

しかし、その一方で、このFT8に対して厳しい批判の声が上がっているのも事実です。なぜFT8は「外道」とまで呼ばれてしまうのでしょうか。その理由を紐解いていきましょう。
最も大きな批判は、「これは人間同士のコミュニケーションではない」という点です。交信のほとんどがPCによって自動化され、オペレーターはただ画面を眺めているだけ。「これでは、まるでコンピューター同士が交信しているようだ」と揶揄されることも少なくありません。オペレーターの腕前や経験が介在する余地が少ないことが、伝統的なアマチュア無線家たちの反発を招いているのです。
FT8の交信は、コールサイン、シグナルレポート、そして「73」という最低限の情報交換のみで完結します。そこには、SSB(電話)でのラグチュー(雑談)や、CW(モールス信号)の行間ににじむ感情のやり取りのような、「会話」の要素は一切ありません。アマチュア無線の醍醐味であるはずの、相手との人間的な交流が欠けているという指摘は、非常に重いものがあります。
FT8の普及は、長年アマチュア無線家が磨き上げてきたCWやSSBの技術を軽視する風潮につながるのではないか、という懸念も生んでいます。苦労してモールス信号を覚えたり、了解度の高いSSBの音質を追求したりといった努力が、FT8の前では不要になってしまう。これは、ベテランハムにとって、自らのアイデンティティを揺るがされるような事態かもしれません。
さらに、FT8は、バンドプランの中で決められた非常に狭い周波数帯に多くの局が集中します。そのため、時間帯によってはウォーターフォール表示(信号を視覚的に表示する画面)が局の信号で真っ赤に埋め尽くされ、他のモードの運用を圧迫しているという問題も指摘されています。
FT8を擁護する意見:新たな可能性を拓く

もちろん、FT8を支持し、その可能性を高く評価する声も多数存在します。私JA3CGZも、FT8の恩恵を受けている一人です。
そもそもアマチュア無線とは、常に最新の技術に挑戦し、実験を繰り返してきた歴史があります。真空管からトランジスタへ、AMからSSBへ、そしてアナログからデジタルへと、技術の進歩と共にその姿を変えてきました。FT8もまた、その歴史の延長線上にある、正当な進化の一つの形なのです。
前述の通り、FT8は非常に微弱な信号を捉えることができます。これは、大型アンテナを設置できない都市部のアマチュア無線家や、QRP(小電力)運用を楽しむハムにとって、まさに福音です。これまで諦めていた遠距離の局(DX)との交信が、FT8によって現実のものとなった例は数え切れません。
アマチュア無線界の高齢化が叫ばれて久しい中、FT8は新規参入者を呼び込む起爆剤としての役割も期待されています。CWの習得といった高いハードルなしに、初心者でもすぐに世界中の局と交信できる楽しみは、新しい世代にとって大きな魅力となるでしょう。こちらのサイトでは、初心者向けの詳しい始め方が解説されています。
最終的には、アマチュア無線をどのように楽しむかは個人の自由です。ラグチューが好きな人もいれば、コンテストに熱中する人もいる。そして、DXエンティティを追い求める人もいる。FT8は、その多様な楽しみ方の一つに過ぎません。他人のスタイルを「外道」と決めつけ、否定するのではなく、お互いの価値観を尊重し合うことこそが、アマチュア無線の精神ではないでしょうか。
中立的な視点:両者の共存は可能か?

私JA3CGZは、FT8とCW/SSBは決して対立するものではなく、むしろ互いを補完し合う関係にあると考えています。
FT8を手軽な入り口としてアマチュア無線の世界に足を踏み入れ、そこからCWやSSBの奥深い魅力に目覚めていく、という新しい流れが生まれる可能性も十分にあります。実際に、私の周りでもそういった若いハムが増えてきました。FT8で世界中の局と交信する楽しさを知り、「もっと深く相手と会話してみたい」と思ってSSBを始めたり、「モールス信号の美しさに触れたい」とCWに挑戦したりする流れは、非常に健全な発展だと言えるでしょう。
バンドの混雑問題についても、バンドプランの見直しや、運用マナーの向上によって解決できるはずです。「外道」という感情的な言葉で対立を煽るのではなく、アマチュア無線の本質である「技術的探求と、それを通じた国際的な友好」という原点に立ち返り、建設的な議論を重ねていくことが重要です。
読者の皆様へアンケート
さて、ここまで様々な角度からFT8について考察してきましたが、あなた自身はFT8についてどのようにお考えですか?ぜひ、下の選択肢からご自身の意見に最も近いものを選んでみてください。そして、よろしければコメント欄で、あなたの熱い思いを聞かせてください!
1.積極的に使っている
2.たまに使う
3.使わないが否定はしない
4.使わないし好きではない
5.その他(コメント欄でご意見をお聞かせください)
まとめ:FT8は「外道」ではなく、アマチュア無線の新たな地平を拓く「可能性」
今回の議論を総括すると、FT8は「外道」などではなく、アマチュア無線の世界に新たな可能性をもたらした、価値ある一つのモードであると言えるでしょう。
もちろん、その運用方法やマナーについては、今後も議論を深めていく必要があります。しかし、最も大切なのは、多様な価値観を認め合い、尊重し合う心です。CWの音色に心躍らせる日もあれば、SSBで旧友との再会を喜ぶ日もある。そして、FT8で地球の裏側の微弱な電波を捉え、静かな興奮に浸る日があったっていいじゃないですか。
私JA3CGZも、これからも様々なモードを楽しみながら、アマチュア無線の素晴らしい世界を探求していきたいと思います。この記事が、皆さんと一緒にアマチュア無線の未来を考える、一つのきっかけとなれば幸いです。
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