「最近、入門バンドが静かになったな…」
これは、私、JA3CGZだけでなく、多くのアマチュア無線家が感じていることではないでしょうか。かつては多くの局で賑わっていた入門バンドが、なぜこれほどまでに閑散としてしまったのか。この問題は、アマチュア無線の未来を左右する深刻な課題です。この記事では、入門バンドが閑散としている理由を深掘りし、新規参入者を増やすための具体的な解決策を、私の経験も交えながら徹底的に解説します。アマチュア無線の未来のために、私たちに何ができるのか、一緒に考えていきましょう。
入門バンドとは?

まず、「入門バンド」とは具体的にどの周波数帯を指すのでしょうか。一般的に、アマチュア無線を始めたばかりの新規参入者が最初に運用することが多い、以下の3つのバンドを指します。
- 50MHz(6m)バンド: 「マジックバンド」とも呼ばれ、夏場に発生するスポラディックE層(Eスポ)による予期せぬ遠距離通信が楽しめる魅力的なバンドです。
- 144MHz(2m)バンド: VHF帯の代表格で、ハンディ機でも手軽に運用でき、移動運用にも人気があります。
- 430MHz(70cm)バンド: UHF帯の代表格で、レピーター(中継局)も多く設置されており、安定した通信が期待できます。
これらのバンドは、比較的安価な無線機で運用を開始でき、アンテナの設置も容易なため、まさにアマチュア無線の「入り口」として機能してきました。しかし、その入り口が今、静まり返っているのです。
入門バンドが閑散としている現状

では、入門バンドの閑散化は、どの程度深刻なのでしょうか。具体的なデータと、現場の声から現状を見ていきましょう。
データで見るアマチュア無線人口の高齢化
総務省の統計によると、アマチュア無線局数は年々減少し続けています。特に深刻なのが、運用者の高齢化です。60代以上が全体の約8割を占める一方、20代以下の若者はわずか数%という状況です。このままでは、新規参入者が増えない限り、アマチュア無線人口の先細りは避けられません。
💡参照情報:総務省の無線局統計は毎週更新されています。最新の推移や統計データは下記URLから確認できます。 詳細はコチラへ: https://ja3cgz.com/ham-decline-survival/
現場から聞こえる「静かすぎる」という声
私自身、移動運用でCQ(不特定多数の局への呼び出し)を出すことがありますが、昔に比べて応答が格段に減ったと感じています。SNS上でも、「VU FMに誰もいない」「静かすぎる」といった嘆きの声が後を絶ちません。せっかく免許を取得した新規参入者がCQを出しても応答がなければ、アマチュア無線の楽しさを知る前にやめてしまうのも無理はないでしょう。
なぜ入門バンドは閑散としてしまったのか?

この閑散化の背景には、複数の理由が複雑に絡み合っています。一つずつ紐解いていきましょう。
理由①:アマチュア無線人口の高齢化と絶対数の減少
最も大きな理由は、前述の通り、運用者の高齢化です。長年アマチュア無線を支えてきたベテラン局が、体力的な問題やライフスタイルの変化で無線から離れてしまう「サイレントキー」が増加しています。一方で、その穴を埋めるだけの新規参入者がいないため、人口は減る一方です。
理由②:娯楽の多様化と若者の無線離れ
インターネットやスマートフォンの普及により、私たちの周りには多種多様な娯楽が溢れています。若者にとって、アマチュア無線は「お金と手間がかかる面倒な趣味」と映ってしまいがちです。手軽に世界と繋がれるSNSやオンラインゲームに比べ、アマチュア無線が持つ魅力が伝わりにくくなっているのが現状です。
理由③:資格取得と開局のハードル
国家試験の勉強、無線機の購入、アンテナの設置など、アマチュア無線を始めるにはいくつかのハードルがあります。特に、都市部の集合住宅ではアンテナ設置が難しく、これが大きな障壁となっています。「面倒くさい」と感じてしまう若者が多いのも頷けます。
理由④:入門バンドの魅力が伝わっていない
HF帯でのDX(遠距離通信)や、FT8といったデジタルモードの華やかさに比べ、入門バンドでのんびりラグチュー(雑談)する楽しさや、移動運用の魅力が十分に伝わっていないのかもしれません。実際に、ブログ「JP3LVIの部屋」でも、入門バンドの閑散化について警鐘が鳴らされています。
💡参照情報:ベテランハムの視点から見た入門バンドの現状と課題については、こちらの記事が非常に参考になります。 詳細はコチラへ: http://blog.livedoor.jp/jp3lvi/archives/1083838652.html
理由⑤:ベテラン局のHFへの移行
多くのハムは、経験を積むと上級資格を取得し、より遠くと交信できるHF帯へ移行していきます。これは自然なステップアップですが、結果として入門バンドを運用する局が減ってしまう一因にもなっています。
理由⑥:コミュニティの希薄化と「怖い」イメージ
地域のクラブ活動が減少し、新規参入者がベテランと交流する機会が失われています。また、一部の排他的な雰囲気や、独特の専門用語が「怖い」「敷居が高い」というイメージに繋がり、初心者を遠ざけている側面も否定できません。
【解決策】入門バンドを再び賑やかにするために私たちができること

では、この状況を打破するために、私たちに何ができるのでしょうか。具体的な解決策を5つ提案します。
提案①:入門バンドの魅力を再発見し、積極的に発信する
まずは、私たち自身が入門バンドの楽しさを再認識し、その魅力を積極的に発信することが重要です。移動運用での手軽さ、Eスポによるスリル、衛星通信という壮大なロマンなど、入門バンドにはHFに負けない魅力がたくさんあります。私、JA3CGZも、ブログやSNSで移動運用の楽しさを発信し続けています。
提案②:新規参入者を温かく迎え、積極的に応答する
もしワッチ中に新しいコールサインを聞いたら、積極的に応答しましょう。たとえ短い時間でも、あなたの応答が新規参入者にとって、アマチュア無線を続ける大きなモチベーションになります。「またお空でお会いしましょう」の一言が、彼らの心を繋ぎ止めるのです。
提案③:地域クラブの活動を活性化させ、交流の場を作る
地域のクラブは、新規参入者が知識や技術を学び、仲間と出会うための重要な場所です。定例ミーティングや移動運用イベントを企画し、初心者向けの勉強会を開催するなど、誰もが参加しやすい雰囲気作りを心がけましょう。オンラインでの交流も有効です。
💡参照情報:アマチュア無線界の活性化に向けた様々な取り組みやイベント情報は、JARL(日本アマチュア無線連盟)の公式サイトで確認できます。 詳細はコチラへ: https://www.hamlife.jp/
提案④:若者へアプローチし、「カッコいい」趣味として見せる
若者にアマチュア無線の魅力を伝えるためには、彼らのフィールドでアピールする必要があります。YouTubeやTikTokで運用の様子を動画で紹介したり、アニメや漫画とコラボレーションしたりと、「カッコいい」「面白そう」と思わせる工夫が求められます。
提案⑤:資格取得のハードルを下げ、気軽に始められる環境を整える
無料の講習会を開催したり、中古機材の情報を共有したり、アンテナ設置の相談に乗ったりと、新規参入者が気軽に始められるようサポートする体制が不可欠です。「意外と簡単だよ」と、私たちが背中を押してあげることが大切です。
成功事例から学ぶ、未来へのヒント

悲観的な話ばかりではありません。新規参入者を増やし、アマチュア無線を盛り上げようと奮闘している素晴らしい事例もたくさんあります。
事例①:小学生アマチュア無線家の育成
人気YouTuber「ももすけチャンネル」では、小学生が楽しそうに無線を運用する様子が紹介され、多くの人に希望を与えました。親子でアマチュア無線を楽しむという新しいスタイルは、若者への普及の大きなヒントになります。
事例②:高校生による電離層研究
アマチュア無線の技術を活かして電離層を研究し、新聞で紹介された高校生もいます。アマチュア無線が、科学への探求心や学業に繋がることを示せれば、教育現場からの注目も高まるでしょう。
事例③:地域クラブの活性化事例
JARL岐阜県支部のように、活発なイベント開催や情報発信で新規参入者を増やしているクラブもあります。彼らの成功事例に学び、自分たちの地域でもできることから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ:アマチュア無線の未来は、私たち一人ひとりの手の中に
入門バンドの閑散化は、アマチュア無線界が抱える構造的な問題の表れです。高齢化、娯楽の多様化、コミュニティの希薄化など、理由は一つではありません。
しかし、嘆いてばかりでは何も始まりません。この記事で提案したように、私たち一人ひとりが新規参入者を温かく迎え、入門バンドの魅力を発信し、交流の場を育んでいくことが、この趣味の未来を繋ぐ唯一の道です。
さあ、あなたもCQを出してみませんか?その電波は、未来のアマチュア無線家を育てる、希望の第一声になるかもしれません。


