HF帯でのDX通信、つまり遠く離れた海外の局との交信は、アマチュア無線の大きな醍醐味の一つですよね。「でも、うちには大きなアンテナを建てる場所なんて無いし…」と諦めていませんか?実は、シンプルなワイヤーアンテナでも、驚くほどよく飛ぶアンテナを自作できるんです。
この記事では、HF帯でDX通信を楽しむためのワイヤーアンテナ、特に代表的なロングワイヤーアンテナとダイポールアンテナに焦点を当て、その基本的な作り方から、性能を最大限に引き出す張り方のコツ、そしてシビアな調整方法まで、私の経験も交えながら徹底的に解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたもきっと「自分だけの飛ぶアンテナ」を手に入れ、アマチュア無線の新たな世界の扉を開くことができるはずです。さあ、一緒にアンテナ作りの冒険に出かけましょう!
なぜワイヤーアンテナは「飛ぶ」のか?基本を理解しよう

「針金みたいなアンテナで、本当に海外まで電波が届くの?」と疑問に思うかもしれません。しかし、ワイヤーアンテナはそのシンプルさからは想像もつかないほどのポテンシャルを秘めています。まずは、その基本と魅力について理解を深めましょう。
ワイヤーアンテナの3つの魅力:シンプル、高コスパ、高性能!
ワイヤーアンテナが多くのハムに愛される理由は、大きく分けて3つあります。
第一に、構造が非常にシンプルであること。基本的には導線(ワイヤー)そのものがアンテナとして機能するため、複雑な部品はほとんど必要ありません。このシンプルさこそが、自作に挑戦しやすい最大の理由です。
第二に、コストパフォーマンスが抜群に高いこと。市販の高性能アンテナは高価なものが多いですが、ワイヤーアンテナなら数千円程度の材料費で、それに匹敵する性能のアンテナを自作することも夢ではありません。
そして第三に、工夫次第で非常に高い性能を発揮すること。設置する高さや長さ、張り方を工夫することで、驚くほど遠くまで電波を飛ばすことが可能です。この「自分で育てていく」感覚が、多くのハムを魅了してやみません。
代表的な2種類:ロングワイヤーとダイポールアンテナの違いとは?
HF帯のワイヤーアンテナには様々な種類がありますが、ここでは代表的な2つ、「ロングワイヤーアンテナ」と「ダイポールアンテナ」の違いを簡単に見ていきましょう。
| アンテナの種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ダイポールアンテナ | ・特定の周波数(の半分)の長さを持つ2本のエレメントで構成 ・給電部を中心に左右対称 | ・基本的にアンテナチューナーが不要 ・SWRが安定しやすい | ・基本は単一バンド用 ・設置に比較的広いスペースが必要 |
| ロングワイヤーアンテナ | ・1本の長いエレメントで構成 ・アース(カウンターポイズ)が重要 | ・1本のエレメントでマルチバンド運用が可能 ・狭い場所でも工夫次第で設置できる | ・アンテナチューナーが必須 ・調整がやや難しい |
どちらが良いというわけではなく、あなたの運用スタイルや設置環境に合わせて選ぶことが重要です。この記事では、両方の自作方法を解説していきますので、ご安心ください。
HF帯でワイヤーアンテナがDX通信に強い理由
では、なぜワイヤーアンテナはHF帯、特にDX通信で力を発揮するのでしょうか。その秘密は「打ち上げ角」にあります。
地上高やアンテナの張り方にもよりますが、適切に設置されたワイヤーアンテナは、電波を低い角度で効率よく放射する特性があります。この低い打ち上げ角の電波が、上空にある電離層で反射し、遠く海外まで到達するのです。まさに、DX通信にうってつけの特性と言えるでしょう。
【実践】7MHz対応!定番ダイポールアンテナの自作方法

それでは、いよいよアンテナの自作に取り掛かりましょう。まずは、アマチュア無線で最も人気のあるバンドの一つ、7MHz帯用のダイポールアンテナの作り方を紹介します。基本を押さえれば、他の周波数にも応用できますよ。
準備する材料リスト
ダイポールアンテナの自作は、意外と少ない材料で始められます。ホームセンターや電子部品店、アマチュア無線ショップなどで揃えましょう。
- アンテナエレメント: IV線やKIV線などのビニル被覆銅線(1.25sq〜2.0sq程度)
- バラン: 1:1の強制平衡型バラン。これがアンテナの心臓部です。
- 碍子(がいし): エレメントの端を絶縁するためのセラミック製またはプラスチック製の部品。2個必要です。
- 同軸ケーブル: 無線機とバランを接続するためのケーブル(5D-2Vなど)。必要な長さを準備します。
- その他: 半田ごて、半田、ビニルテープ、自己融着テープ、ロープなど
キホンのキ!周波数に合わせたエレメント長の計算式
ダイポールアンテナは、運用したい周波数の1/2波長を基本に作ります。ただし、電波は空中よりも電線の中を少しだけ遅く伝わるため、「短縮率」を考慮して少し短くする必要があります。計算式は以下の通りです。
片側エレメント長(m) = 150 ÷ 周波数(MHz) × 短縮率(0.95〜0.97) ÷ 2
例えば、7.100MHzで運用したい場合、短縮率を96%とすると…
150 ÷ 7.100 × 0.96 ÷ 2 = 10.14m
となります。つまり、約10.14mのエレメントを2本用意すれば良いわけです。最初は少し長めにカットしておき、後で調整するのが成功のコツです。
写真で解説!ステップ・バイ・ステップ製作手順
- エレメントの接続: 計算した長さより少し長めにカットしたエレメント2本を、バランの端子にしっかりと半田付けします。
- 防水処理: バランの接続部分は、雨水などが入らないようにビニルテープや自己融着テープで厳重に防水処理を施します。これがアンテナの寿命を左右します。
- 碍子の取り付け: エレメントの反対側の端に、碍子を取り付けます。ここにロープを結び、アンテナを張る際の支点とします。
【実践】マルチバンド対応!ロングワイヤーアンテナの自作方法

次に、1本で様々なバンドに出られる手軽さが魅力のロングワイヤーアンテナの作り方です。アパマンハム(マンションやアパートに住むハム)の強い味方にもなりますよ。
準備する材料リスト
ロングワイヤーアンテナの材料は、ダイポールよりもさらにシンプルです。
- アンテナ線: ダイポールと同様のビニル被覆銅線。長さは設置場所に合わせて調整しますが、10m〜20m程度あると良いでしょう。
- UN-UN(アンアン): 9:1のインピーダンス変換トランス。ロングワイヤーの高いインピーダンスを無線機が扱いやすい値に変換します。
- カウンターポイズ用の電線: アンテナ線と同じものでOK。複数本あると効果的です。
- 同軸ケーブル: 無線機とUN-UNを接続します。
- その他: 碍子、ロープ、各種テープ類
性能の鍵!「カウンターポイズ」の作り方と接続のコツ
ロングワイヤーアンテナで最も重要なのが「カウンターポイズ」です。これは、アンテナが効率よく電波を放射するための「仮想的な地面(アース)」の役割を果たします。
作り方は簡単。数m〜10m程度の電線を数本用意し、UN-UNのアース(GND)側の端子にまとめて接続するだけ。このカウンターポイズを、ベランダの床や室内に這わせることで、アンテナの性能が劇的に向上することがあります。長さや本数を変えて、最もSWRが下がるポイントを探るのも楽しみの一つです。
写真で解説!ステップ・バイ・ステップ製作手順
- UN-UNへの接続: アンテナ線をUN-UNの入力端子に、カウンターポイズ用の電線をアース端子にそれぞれ接続します。
- 防水処理: こちらもダイポール同様、接続部分をしっかりと防水します。
- 展開の準備: アンテナ線の先端に碍子を取り付け、ロープを結んでおきます。
アンテナの性能を最大限に!効果的な張り方のコツ5選

アンテナは、ただ作って繋げば良いというものではありません。その性能を100%引き出すには、「張り方」が非常に重要になります。ここでは、今日から使える5つの実践的なコツをご紹介します。
コツ1:とにかく「高く」「長く」を意識する
これはアンテナ設置の基本中の基本です。アンテナは、地面や建物などの影響を受けにくくするため、可能な限り高く、そして長く展開することが理想です。周囲に障害物がない開けた場所ほど、電波はスムーズに飛んでいきます。
コツ2:周囲の障害物から距離を取る
アンテナエレメントの近くに、建物や電線、金属製のフェンスなどがあると、それがアンテナの動作に影響を与え、SWRの悪化やノイズの原因となります。最低でも1m〜2m、できればそれ以上離して設置するように心がけましょう。
コツ3:【ダイポール】逆V字で打ち上げ角を低くする
ダイポールアンテナの設置方法として人気なのが「逆V字型」です。給電部を最も高くし、両端のエレメントを地上に向かって斜めに下ろす張り方です。これにより、打ち上げ角が低くなり、DX通信に有利になると言われています。また、水平に張るよりも設置面積が少なくて済むというメリットもあります。
コツ4:【ロングワイヤー】釣り竿活用で斜めに展開
ロングワイヤーアンテナ、特にアパマンハムにおすすめなのが、グラスファイバー製の釣り竿をマスト代わりにする方法です。ベランダから釣り竿を斜めに突き出し、その先端からアンテナ線を垂らすことで、手軽に高さを稼ぐことができます。詳細はこちらの記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてください 。
コツ5:アパマンハム向け!ベランダ設置の工夫
ベランダという限られたスペースでは、様々な工夫が求められます。物干し竿に沿って張ったり、エアコンの室外機のアースをカウンターポイズ代わりに利用したりと、試行錯誤も楽しみの一つです。ただし、安全には最大限配慮し、アンテナが落下したり、通行の邪魔になったりしないように、しっかりと固定してください。
最後の仕上げ!アンテナ調整とSWRの追い込み方

アンテナを張り終えたら、いよいよ最終調整です。この仕上げ作業が、あなたのアンテナを「本当に飛ぶアンテナ」に変えるための最も重要なステップです。
なぜ調整が必要?SWRと「飛び」の関係
SWR(定在波比)とは、無線機から送られた高周波エネルギーが、アンテナから効率よく電波として放射されずに、どれだけ反射して戻ってきてしまうかを示す指標です。このSWRの値が低いほど、効率よく電波が放射されている、つまり「よく飛ぶ」状態と言えます。
理想は「1.0」ですが、実用上は「1.5以下」を目指して調整を行います。SWRが高いままだと、無線機に負担がかかり、故障の原因になることもあるため、必ず調整を行いましょう。
【ダイポール】エレメントの長さでSWRを調整する
ダイポールアンテナのSWR調整は、エレメントの長さを変えることで行います。アンテナアナライザーや無線機内蔵のSWR計を使って、目標の周波数でSWRを測定します。
- SWRの最良点が目標周波数より低い場合: エレメントが長すぎるので、左右のエレメントを同じ長さだけ少しずつ切り詰めます。
- SWRの最良点が目標周波数より高い場合: エレメントが短すぎるので、新しい電線を継ぎ足して長くします。
この作業を根気よく繰り返すことで、SWRを追い込んでいきます。SWR調整の具体的なテクニックについては、こちらの動画が非常に参考になります 。
【ロングワイヤー】アンテナチューナー(ATU)の活用法
ロングワイヤーアンテナの場合は、アンテナチューナー(ATU)を使ってSWRを調整するのが一般的です。ATUは、アンテナと無線機の間に立って、インピーダンスの不整合を強制的に整合させてくれる便利な機器です。
多くの無線機にはATUが内蔵されていますが、より広範囲のインピーダンスに対応できる外付けのATUも有効です。特に、屋外設置型のATUは、アンテナの直下で整合を取るため、同軸ケーブルでの損失が少なく、非常に効率的です。詳細はダイヤモンド社の資料なども参考に、最適なATUを選んでみてください 。
安全な運用とノイズ対策のために「アース」を確実に!
最後に、忘れてはならないのが「アース(接地)」です。これは、落雷などから無線機を守る安全対策であると同時に、回り込みによるノイズを防ぎ、電波の飛びを安定させる効果もあります。
戸建ての場合は、地面にアース棒を打ち込むのが最も確実です。アパートやマンションの場合は、建物の鉄骨や金属製の水道管に接続する方法がありますが、事前に管理組合や大家さんに確認することをおすすめします。
まとめ:自作アンテナで、いざDXの世界へ!
今回は、HF帯でよく飛ぶワイヤーアンテナの自作方法から、張り方のコツ、そして調整方法までを詳しく解説してきました。
一見難しそうに思えるアンテナの自作ですが、一つ一つのステップを丁寧に進めれば、誰でも必ず完成させることができます。そして、自分で作ったアンテナで初めて海外の局と交信できた時の感動は、何物にも代えがたいものがあるはずです。
この記事が、あなたのアマチュア無線ライフをより豊かにする一助となれば、これほど嬉しいことはありません。さあ、工具を手に取り、あなただけの「飛ぶアンテナ」作りに挑戦してみてください。そして、自作アンテナでDXの世界を存分に楽しんでください! 73!
参考文献
- 【完全ガイド】ロングワイヤーアンテナの自作方法|材料選びから調整まで徹底解説. (2025年11月5日). CQ~JA3CGZ アマチュア無線ブログ. https://ja3cgz.com/longwire-antenna-2/
- 【永遠の戦い】ダイポール・アンテナ SWRを下げる方法を紹介 。測定器を使って、適切な対策方法を紹介。アマチュア無線 アンテナ 調整. (2022年). YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=WV37m4zCIDw
- HF帯ワイドバンドワイヤーアンテナ. ダイヤモンドアンテナ株式会社. https://www.diamond-ant.co.jp/pdf/b/bb6ws.pdf


