アマチュア無線では様々な形のアンテナを使用することが認められています。
しかし、他の無線の分野では、アンテナはほぼ自由に使用できないのが普通です。
CB無線は外付けアンテナは禁止されていますので附属アンテナで運用しなければなりません。
パーソナル無線では外付けアンテナもOKですが、棒状の単一型のみが許可され感度の制限もあります。
業務無線の場合は、無線局の免許交付時に許可されたアンテナを必ず使用しなければなりません。
アマチュア無線はアンテナもすべて自由に選択できます。自分が運用したいバンド、運用スタイル、設置場所、予算などを考えて、自分に適したアンテナを選ぶことが出来るのです。
今回は、アマチュア無線で利用できるアンテナの種類と選び方をまとめました。自局に適した「よく飛ぶアンテナ」を見つけるための参考になれば幸いです。
アンテナの大きさ
アンテナの基本形はダイポールアンテナで、波長の二分の一(給電部から左右に4分の1波長ずつ)の長さで共振します。フルサイズアンテナというのは1/2波長の長さのエレメントがあるアンテナのことです。アンテナの大きさ、つまり素子(エレメント)の長さは周波数で決まります。
電波は光と同じ速度で1秒間に約30万km進みます。30万kmを周波数(ヘルツ)で割った数値が波長です。
分かりやすく周波数の単位をMHzにすると、次の式で波長が計算できます。
λ 波長(m)=300÷周波数(MHz) 実際のエレメントの長さは導体の短縮率により若干短くなります。
電波は導体を通るときは、その物質や外部被覆などの影響で空間の速度より遅くなります。
それが波長短縮率または速度係数と呼ばれるものです。波長短縮率は導体により異なります。
例えば一般的なワイヤーの短縮率は95%前後ですから、300÷周波数(MHz)×0.95で計算します
周波数 | 波長 | 1/2波長 | 周波数 | 波長 | 1/2波長 |
1.9MHz | 160m | 80m | 24MHz | 12m | 6m |
3.5MHz | 80m | 40m | 28MHz | 10m | 5m |
7MHz | 40m | 20m | 50MHz | 6m | 3m |
10MHz | 30m | 15m | 144MHz | 2m | 1m |
14MHz | 20m | 10m | 430MHz | 70cm | 35cm |
18MHz | 17m | 8.5m | 1200MHz | 25cm | 12.5cm |
21MHz | 15m | 7.5m | 2400MHz | 12cm | 6cm |
この表の波長は慣習的に表現される数値です。実際は上の式で計算してください。 また、エレメントに短縮コイルを挿入して、物理的なエレメント長を短くすることも可能です。 |
アンテナの種類
アンテナには色々な形のものがあり、それぞれ特徴があります。アンテナの種類は、形状や動作から下記の様に3つの分類をすることができます。
接地型アンテナと非接地型アンテナ
接地型アンテナ
接地とはアースのことで、アンテナのエレメントの片方を地面や車のボディに接地することによって動作するアンテナを接地型アンテナといいます。
例えば、地上の1/4波長のアンテナを地面に接地することで地中が仮想的に片方の1/4波長のイメージアンテナの役割を果たし、1/2ダイポールと同じ動作をさせることができるのです。
代表的なのがバーチカルアンテナです。
アースの代わりにラジアル(地線)を数本付けて動作させているのがグランドプレーンアンテナ(GP)です。
モービルアンテナは地面の代わりに車体の鉄板部分にアースします。よってモービルアンテナで1/4波長のものは基台をボディに導通させなければなりません。
ハンディ機のホイップアンテナも多くが1/4波長ですが、ハンディ機のボディをアースの代わりにしているのです。
非接地型アンテナ
非接地型アンテナは、エレメントの両方が空中に開放されているアンテナでアースは不要です。代表的なのがダイポールアンテナで、給電点から左右に1/4波長のエレメントがあり、左右合わせて1/2波長で共振します。
基本的に1/2波長や1波長のアンテナは非接地型アンテナです。八木アンテナや各種ループアンテナも非接地型アンテナです。
指向性アンテナと無指向性アンテナ
指向性アンテナ
一定の方向に電波が送受信されるアンテナを指向性アンテナ(ビームアンテナ)といいます。代表的なのがテレビ受信用アンテナにも利用されている八木宇田アンテナやパラボラアンテナです。
指向性により目的方向の送受信能力が向上しますので遠距離通信には有効です。さらに目的方向以外からの混信を避けることができます。アンテナを向けた方向以外との通信ができないので、ローテーター(回転装置)が必要です。
水平ダイポールアンテナは双方向(8の字特性)に電波が発射されますので、これも指向性アンテナの一種で双指向性アンテナといいます。
無指向性アンテナ
アンテナから電波が水平面に四方八方に発射されるものを無指向性アンテナといいます。代表的なのがグランドプレーン(GP)アンテナやモーピルホイップアンテナです。指向性アンテナに比べて利得は劣りますが、あらゆる方向との通信ができますので、近距離通信や移動局に適しています。デメリットとしては混信が多くなります。
指向性アンテナと無指向性アンテナを切り替えて使うのがベスト
指向性アンテナと無指向性アンテナの両方を設置し、目的や状況に応じて切り替えられる設備にしておけばベストです。
ここでは水平面の基本的な指向特性を簡単に説明しましたが、電波は立体的に発射されますので、垂直面にもそれぞれ指向特徴があります。それに周囲の環境や設置状況でも若干変化します。それらについては割愛しますので、興味のある方はアンテナハンドブック等を参照してください。
水平アンテナと垂直アンテナ
設置方法の違いで垂直偏波と水平偏波に関連します。例えば1本のダイポールアンテナを地面に対して水平に設置すれば発射される電波面は水平偏波となり、地面に対して垂直に設置すれば発射される電波面は垂直偏波となります。GPやモービルホイップは必然的に垂直に設置しますから垂直アンテナです。ダイポールや八木アンテナは水平に設置すれば水平偏波となり、垂直に設置すれば垂直偏波となります。
一般的にアマチュア無線ではHF帯は水平偏波が使用され、144MHz帯より高いバンドは垂直偏波が利用されます。50MHz帯はどちらも利用されます。
直接波ではアンテナの偏波面が合わないと受信感度が下がりますから、直接波が基本のVHFやUHFではモービル局が多いことや固定でもGPアンテナが多いので、それら垂直系のアンテナに合わせたものと思われます。
HF帯はエレメントが長いですからダイポールも八木も水平に設置する方が容易です。HF帯は電離層反射波が基本で、電離層で反射すると偏波面が乱れますから、水平と垂直の違いはなくなります。よってバーチカルアンテナなど垂直系のHFアンテナでも交信できるのです。
いろいろなアンテナ
グランドプレーン(GP)アンテナ 当局で使用しているCP-6SやX-7000もGPアンテナです。➡設置の手順や使用のレポートも詳細掲載しています。 |
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ダイポールアンテナ 当局で使用しているダブルバズーカアンテナは、ダイポールをアレンジしたアンテナです、使用レポートはコチラ。 |
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ワイヤーアンテナ 当局でも使用しているロングワイヤーアンテナもこのタイプです。詳細はコチラに。 |
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八木宇田アンテナ 一般には八木と呼ばれているが正しくは八木宇田アンテナ。テレビアンテナでお馴染みの魚の骨のような形をしている指向性アンテナ。八木博士と宇田博士が共同開発し世界的にもビームアンテナの基本形となっている。給電部のエレメントがダイポールアンテナです、後ろに反射器、前方に導波器の3エレメントが基本。導波器を増やすほど指向性が鋭くなり利得も向上する。アマチュア無線では指向性アンテナとしては最もポピュラーな存在である。一般にHF~50MHz帯は水平に設置し、144MHz以上は垂直に設置する。 |
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HB9CV 2本のエレメントに位相差給電することで高い利得が得られ指向性もある。2エレメントが基本形だが、導波器を付けてさらに利得を得ることも可能。50MHzやHF帯に利用されることが多い。HB9CVは考案したスイスのハムのコールサインから命名された。 |
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ループアンテナ 1波長のエレメントをループ状に丸めたアンテナ。形は四角でも三角でもよい。四角だとクワッド、三角はデルタループと呼ばれる。八木の原理で多素子化するとビームアンテナとなる。利得は得られるが受風面積が大きくなるのが欠点。市販品もあるが自作する人が多い。 |
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ヘンテナ 併合ループの変形で、長辺が1/2λ、短辺が1/6λの長方形の中に非対称の給電部がある。八木よりも利得が高い。単独でも使用できるが、八木の原理で多素子化しビームアンテナとしても使用できる。長辺が1λのものもある。重量と受風面積が大きくなるのが欠点。考案したのは日本のハム。動作原理が不思議なので「変てこなアンテナ」という意味から命名された。市販品が少ないので自作がメインとなる。 |
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パラボラアンテナ 中華鍋のような形のアンテナ。鋭い指向性があり、高い周波数に適している。一般家庭ではBSやCSなどの衛星放送の受信用としてよく設置されている。アマチュア無線でも1.2GHz以上の高いバンドで使用される。アマチュア用は市販品が少ないので、自作がメインとなる。 |
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ログペリアンテナ 正しくはログペリオディック。各エレメントの長さが前方にいくにしたがって短く変化しているので、広範囲の周波数帯に対応している。広帯域の受信アンテナとして使用されることが多い。八木のようなビーム特性がある。 |
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ディスコーンアンテナ ディスク(円盤)とコーン(円錐)を組み合わせた傘の骨のようなアンテナ。VHFからUHFの広帯域受信用として使用される。無指向性なので利得は高くない。市販品では上部に送信用のホイップアンテナを付けた製品が多い。 |
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モービルアンテナ 自動車用の無指向性アンテナで受風面積を小さくするため細くできています。モービルホイップとも呼ばれるようにムチのようにしなるので高速走行しても折れません。複数のバンドに対応したものが主流です。アースが必要なラジアルタイプとアース不要のノンラジアルタイプがあります。430MHzより上は殆どノンラジアルです。50MHzより低い周波数では殆どが1/4波長でアースが必要です。自動車以外で使用する場合はノンラジアルタイプが無難です。 |
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フレキシブルアンテナ ハンディ機用のアンテナです。動作原理はモービルアンテナと同じですが、身体に当たっても安全なようにゴムで覆われており柔らかいのが特徴です。ハンディ機のボディにアースします。複数のバンドに対応したものが主流です。取付けコネクタの形状がBNG型とSMA型がありますので所有するハンディ機に合うものから選択しましょう。 |
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その他 キュービカルクワッド、スイスクワッド、スクエアロー、バイコニカル、AWX、ZLスペシャル、バタフライ、磁界型ループ、同軸ケーブルで作るコーリニア、フィーダ線で作るJ型、空き缶を利用したカンテナ・・・色々な形のユニークなアンテナがたくさんあります。それらの多くはハムが考案したものです。みなさんも身近な材料で自作してみるとよいでしょう。 |
カタログの見方
●dBとdBi <要注意!> dB(デシベル)は、アンテナの基本形である1/2波長のダイポールアンテナを0dBと基準し、そのダイポールアンテナと比べてどれくらい利得があるかを示すものです。よってdBは相対利得とも呼ばれます。本来はdBdと表記すべきですが、一般的には単にdBと表記されていることが多いようです。。 dBi(デシベルアイソトロピック)は、仮想上で全方向完全な無指向性アンテナを基準にしており、絶対利得とも呼ばれます。注意点は dBi は理論上の完璧なアンテナが基準ですから、dB表記に比べて 2.15dB (正確には2.14)数値が大きくなっていることです。よって同じダイポールアンテナでもdb表記なら0db、dBi表記なら2.15dbi となります。0dB=2.15dBi という関係です カタログでは数値を大きく見せるために dBi 表記がほとんどです。カタログによっては表記が混在しているものや、dBiの数値なのにdBと表記されている場合もありますので、複数のアンテナ性能を比較検討する際には要注意です。 ●FB比 ●FS比 |
アンテナ設置に必要な機材・測定器
■指向性アンテナにはローテーター
ローテーターとはアンテナを回転させる装置です。テレビ放送のように常に決まった方向から電波が来るのであればアンテナをその方向に固定しておけばOKです。しかし、アマチュア無線は不特定の局と交信することが多いのでいつでも360度回転できないと不便です。そこでビームアンテナにはローテーターを付け無線室のコントローラーを操作して目的の方向にアンテナを向けるわけです。
ローテーターもアンテナの大きさや重量に応じて小型から大型まで多くの種類があります。ただ、価格が高いですから、最初はベランダに設置したポールを手で回転させる人もけっこいます。
■感度アップにはプリアンプ
弱い信号を電気的に増幅させるのがプリアンプ(受信増幅器)です。UHFのように高い周波数になるとケーブルによるロスが大きいのでプリアンプを使用している局も多いようです。市販品は50、144、430、1200MHz用が発売されています。430MHz帯以上を本格的に運用したいのであれば購入する価値はあると思います。
また、プリアンプにはアンテナ直下型と無線機の近くに設置する卓上型がありますが、アンテナ直下型でないとあまり意味がありません。それは弱い信号がケーブルでロスする前に増幅する必要があるからです。卓上型だと・・既にロスしてしまった後に増幅しても、いったん消えた信号は復活せず、ノイズ増幅器になりかねません。だからパワーアンプ(送信増幅器)に内蔵されているプリアンプもおまけ程度と思ってください。プリアンプのメリットを生かすには、必ずアンテナ直下に設置してください。
■SWR計
アマチュア無線でもアンテナなどの各種測定機器があれば便利です。無線機もアンテナもコネクタ付ケーブルもすべて市販品の場合はそれらの取扱説明書のとおり設置すれば、よほどのことがない限り大きな不具合はないと思います。でもハムとしては最小限の簡易的な測定機器は所有しておきたいものです。アンテナとケーブルのマッチングを見るSWR計は必須と思ってよいでしょう。プロ用の測定器は非常に高価ですから、無線機の出力を測るパワー計と一緒になっているアマチュア無線用の通過型「SWR&パワー計」が安価(1万円前後)で便利です。パワーを測る際にダミーロード(擬似空中線)もあれば便利です。アンテナを自作する場合は簡易的な電界強度計(自作で十分)も必要でしょう。
SWR値は完全整合だと1.0ですが、概ね1.5以内ならほぼ整合状態と考えて良いでしょう。
アンテナ理論や自作に興味がある方は、CQ出版社の「アンテナ・ハンドブック」の購入をお勧めします。その他にも同社からアンテナに関する本がたくさん出版されていますので読んで研究するとよいでしょう。
市販アンテナも多くの種類があり便利ですが、自作のアンテナで交信するとまた違った喜びが味わえるものです。それに身近な材料で製作できますので、市販品に比べてはるかに安価でしかも利得の高いものが簡単にできます。みなさんもぜひ自作にチャレンジしてみてください。